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2009年07月30日

小説 and She〜4

4子供達と彼女
 柘榴と一緒に船内の階段を下りる。
 甲板へ通じる階よりも更に下へ。
 何があるの?何をされるの?
 心臓の鼓動が早くなって、息苦しい。
 彼は人形がかかっている扉の前で足を止めた。
「子供は好きか?」
 柘榴が問う。
「あの客船にいたときは、随分と子供に慕われていたようだった。もし、お前がこの船で、オレの女としているだけじゃなく、何かがしたいって言うのなら‥‥。」
 子供達の世話をしてくれ。そしてこの船にいる間、ちゃんと躾てほしい。あいつら、口ばっかり達者になって、手に負えないんだよな‥‥。」
 彼はちょっと恥ずかしそうに頭をかいた。
「勿論、もし何かがしたいなら‥‥だけどね。」
 彼は彼女を見た。
 子供といれば、少し気持ちもほぐれるだろう。
 まずこの船にいることが苦痛にならないようにしなければならないからな。
 お互い深く知り合うのは、それからだ。
 長そうな道のり。
 こんなに気長に構えるなんて、俺らしくないな‥‥。
「します。」
 蓮華はすかさず答えた。
 だっておかしいもの。さらわれてきたのに何もしなくていいなんて。
 それに何かしていたほうが落ち着くわ。
「よし。」
 柘榴はうなづくと目の前にある扉を開けた。
 中には六人の子供達。
「おい、お前ら、聞け!」
 子供達は一斉に振り返る。
「今日からお前らの面倒を見てくれる蓮華、俺の女だ。」
 柘榴が彼女を子供達の前に押し出した。
「蓮華です。よろしく。」
 子供達の前なら、微笑むことができる。
「ねーオレのオンナってどういう意味ー!」
 一番小さな女の子が興味津々の顔をして聞く。
 子供達になら心を開ける。
「お前はそんなこと知らなくていいの!」
 その隣の船の上では珍しい色白の男の子が言う。
 それは何故?
 柘榴は苦笑する。
「筑紫、この船のことちょっと教えてやってな。」
「おう!」
 真中の一番背の高い男の子が答える。
 子供達の心なら伝わってくるから。
「蓮華、コイツらをよろしく頼むぞ。」
 そう言い残すと、柘榴は静かにその部屋から出ていった。
 大人達は何を考えているかわからない。
 カチャッと扉が閉まる音。
 その音ともに、彼女の膝はカクンとなり、その場に崩れ落ちた。
 子供達は生命を脅かすようなことはしない。
「お姉ちゃん!どうしたの?」
「ん、何でもない‥‥。」
 蓮華は言う。
 大人達は違う。何でも力任せで従わせる。傷つけられる。
 だから、恐い‥‥。
 新しい世界に足を踏み入れることなんて、そう何でもない。出逢って別れて、この繰り返し。すっかり慣れたはず。
 なのにどうして涙が出てくるの?
 無邪気な子供達に囲まれ、緊張の糸がほぐれたから。
 いつまでも彼女の名を呼んだ、あの人の声が今もまだ聞こえる気がする。
 蓮華は自分の顔を両手で覆い、声を殺して泣き出した。
 子供達はそれを見て、彼女の周りに集まってきた。
「何で泣いてるの?柘榴がひどいことした?」
 一番背の高い男の子が言う。さっき柘榴が筑紫と呼んだ男の子。
「アイツ、こんなきれいな姉ちゃんをいじめるなんて、ひどい奴だ。とっちめてやらなくちゃ!」
 拳を握りしめて、その子が力む。
 考えてみたら何一つ恐いことなんてされてない。まだ‥‥。これからも‥‥?
「違うの‥‥酷い事なんてされてないよ。」
 でも涙は止まらない。
「もう平気だよ。だから泣かないで。」
 筑紫が彼女を下からのぞき込み、一生懸命慰める。
「ん‥‥。ありがと。」
 優しい子供達。彼女の天使。
「それにしても、びっくりだよ。
 いつも子供しか連れてこないのに、今日はこんな素敵なお姉さんなんだもん。」
 話を逸らそうとして、筑紫が言った。
 子供しか?子供しか連れてこないの?
 何それ。どうして?
「柘榴は、いつもなら親のいないかわいそうな子供達をさらってくるのに‥‥。」
「それでね、俺達の島へ連れていって、子供を欲しい人の所に預けて、一緒に大きくなるんだ。ここにいる俺達、皆最初は柘榴にさらわれてきたんだよ。」
「うそ‥‥。」
「あのね、とっても楽しいんだよ。施設なんかにいるより!」
ああ、その表情を見ていればわかるわ。少しも無邪気さが損なわれていない。幸せに育った‥‥。
「柘榴はすごいんだ。目を見ただけで、その子が辛い思いをしてきたことがわかっちゃうんだ。 きっとお姉ちゃんもそんな目をしているんだね。」
 そんな‥‥それじゃあ、柘榴に連れていかれそうになったあの子達の代わりになることで、あの子達の幸せを奪ってしまったの?この子達と一緒にいたほうが幸せになれたかもしれない可能性を奪ってしまったの?
 でも‥‥そんなこと信じられない。
 だって、海賊じゃない!
 子供には嘘ついているかもしれないし。
 蓮華はしっかり涙をふき、子供達の顔をしっかり見つめた。
 だけど確かにここにいる。この子供達が。
「君が筑紫君ね。何歳?」
「六歳。」
「キミ、しっかりしてるのね。偉いわ。」
「竹も六歳だよ。それから、コイツ柊が五歳で、この桜と椿が四歳。向日葵が五歳。」
「よし、覚えたぞ。
 お姉ちゃんの名前は蓮華。十六歳。皆よりもずっと年上。」
「ふうん。もっと大人に見えるな。」
「まあ、御世辞も言えるなんて、その年で感心しゃうわ。」
「御世辞じゃないよー。
 それにしても、柘榴ってば、ちょっと犯罪。五歳も離れてるのに惚れたなんて。」
「ねー筑紫ハンザイってナニ?」
 横で話を聞いていた椿が言った。
 好奇心旺盛な女の子。
「椿はまだ知らなくていいの!」
「筑紫ったら、そんな言葉どこで覚えてきたの?」
 あの人が言った通り、口が達者ね‥‥。
「みんな、柘榴って呼び捨てにしないで、船長って呼ばなきゃ駄目よ。」
「何で?」
 子供たち皆が蓮華に問う。
「何でって‥‥そうね、みんな柘榴のこと尊敬しているでしょ?」
「ソンケーって何?」
 椿が口をはさむ。
「んー、尊敬っていうのはね、自分じゃない人のことをね、すごいなーって思うこと。」 
 ちょっと違うかなあ‥‥。  
「ふうん。」
 椿は納得した様子。
「みんなは、柘榴のことすごい人だって思うんでしょ。」
 蓮華はちょっと抵抗を感じながらも言葉を続ける。
「思うよ。だって柘榴ってすっごく強いんだ。」
 と筑紫が言った。
「誰にも負けたことなんか無いよ。」
 これは竹。
「恐いときもあるけど、とっても優しいの。」
 と向日葵。 
 子供達が口々に言う。
 こんな小さな子供からこんなにも信頼を得るなんて‥‥。
 悪い人ではない証拠。
 だけど‥‥。
「だったら、柘榴なんて、呼び捨てにできないよね?」
 子供達はうなづいた。
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2009年07月29日

7/29

地震
建物の倒壊
離れ離れの家族・・・
とあるアパートに身を寄せながら、下の子が建物の倒壊で逃げられず死んだとの電話
最悪の朝だ
ラベル:悪夢
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2009年07月28日

ブザービート

子供を生んでから一切ドラマを見ていなかった私。
本当に数年ぶりにドラマを見ている。
しかも、なぜかというと、子供にスポーツはバスケをさせたいから!
なかなかテレビで試合をやるものでもないし、
これだ!と思って見始めた。
山下君がかっこいい!!
こういう憧れとかときめきとか、本当に忘れ去っていた感情だなあ、と思う。
また、そういう気持ちが甦ってきたのは、いいことなのかな?
それとも、また子供を生んだりしたらなくなっちゃうものなのかな・・・?
三人目を作りたい私としては微妙な心境です。
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2009年07月27日

小説 and She・・・〜3

3海賊と彼女
 薄暗がりの中、少女は再び甲板に立っている。
 霧‥‥。
 辺りは白い霧に包まれ、青黒いはずのその空間が、灰色に染まる。
 今日は見えないかもしれない‥‥朝陽。
 海と空の隙間から顔を出すはずの太陽。
 いつもそれは金色の輝きを放ちながら、この空を駆け上がる。
 一生懸命この世界を暖かい色に染めようとする。
 いつもならそれは姿を現す時間。しかし、周囲は白んでもその姿は未だ無い。
「今日は駄目なのかな‥‥。」
 毎朝の太陽との再会。
 それは少女に生を感じさせる。
 そして今日一日を生き抜くための勇気をくれる。心の支え。
 だからもうちょっと待ってみよう。
 もしかしたら見えるかもしれない‥‥。
 しかし、太陽は姿を見せないまま時間は流れる。
 少女は大きく溜息をつく。
 溜息とともに全ての気力が抜け落ちる。
 人前では久しく見せなかった涙。
 それが今、彼女の頬をつたう。
「今日は駄目なのかな?」
 いつもぎりぎりの、その心は壊れそう。
 その時、遠くに何かが光る。
 小さく、金色に。
 太陽?
 違う。それは太陽の色ではない。
 鏡を反射したような、そんな光。
 鋭い光。人工的な光。
 船の明かり?
「何あれ‥‥。」
 こんな時間に近くを別の船が通るなんて聞いていない。でもあれは‥‥。
 その光は次第に形を作ってきた。
 やっぱり船だ。
「客船?客船にしてはちょっとスピードが速い。」
 彼女が瞬きする間に、その船はひとまわり大きなそれになる。急接近してきている証拠。
 予定外に遭遇した船‥‥。
「まさか‥‥海賊?知らせなきゃ!」
 彼女がそう思い、甲板を離れたとき、既に船体に描かれた『afrodite』という文字が読み取れた。

「フ‥‥愚か者達。今頃航路を変えたって、もう遅い。
 このアフロディテの追撃からは逃れられない!」

「子供達は?」
「蓮華と一緒に地下の食糧室へ。」
「客室の鍵を閉めろ!」
「銃を持て!甲板に出るんだ!」
 逃げ切る事なんて出来なかった。
 それは彼女が船を見つけたときから、既にわかっていたことだ。
 それでも操縦士は全力で逃げようとした。
 船はもうすぐそこ。
 海賊達が甲板に身を乗り出しているのが見える。
 強い衝撃とともに、船同士は連結され、海賊達は飛び込んできた。
 手に銃や剣を持って。
 敵うはずがなかった。

 甲板を走り回る人の足音が、地下のこの部屋にいても響いてくる。
「姉ちゃん恐い!」
 女の子達が泣き叫び、蓮華にしがみつく。
「大丈夫。大丈夫よ。
 お姉ちゃんが守ってあげるから。絶対海賊達なんかに触らせないから。
 大丈夫。恐くない。」
 一人ずつ頭を撫でて、励ます。
 それを遠巻きに見ている男の子達。歯を食いしばり、恐怖を一生懸命隠して。
「さあ、もう泣かない。海賊達に一矢報いなきゃね。」
 強い子供達。
 彼女のその言葉で、泣き止み側から離れた。
「いい子ね。皆。
 さあ、扉の前に荷物を置いて壁を作ろう!」
 無駄な抵抗だとわかっていても、しないよりはいい。
「おうっ!」
 元気を奮い立たせるように彼女が声をかけると、負けじと声をはりかえす。
 男の子達は大丈夫ね。
 問題は女の子達。乗り切れるかしら、この状況を。
 ‥‥私だって恐い。でも!
 食糧の詰まった箱や俵を男の子と蓮華とで力を合わせて扉の前に積み上げる。
 それから、子供達を荷物の陰に集めて座らせた。
「ここならたとえ扉の向こうから銃で撃たれても、死角になるから、大丈夫。
 絶対皆を傷つけさせないから。恐くないから‥‥大丈夫だから。ね。」
 にっこりと微笑んで、一人ずつ頭を撫でる。
 ああ、皆一生懸命恐怖を我慢しているんだわ。
 絶対この子達を守る。
「姉ちゃん、これからどうしたらいいの?」
 男の子が言った。
「海賊達が入ってくるところに奇襲をかけるわ。この剣で。」
 腰に携えた剣を見せる。
「姉ちゃん、僕も一緒に戦うよ。」
「僕も!」
「皆であいつらやっつけよう!」
「うん、そうね。やっつけよう。
 でも皆はここにいて。海賊とは私が戦う。」
「でも!」
「皆はここで女の子達をしっかり守るの。
 怯えているレディ達を勇気ある小さな戦士クン達がしっかり守って。」
 うなづき、そして小さな戦士達はレディ達を壁際に押し込め、守る姿勢をとった。
 大丈夫。強い子達だわ。
 扉の向こうで足音がする。海賊達が地下に下りてきたのだ。
 彼女は精一杯の微笑みを見せてからその場を離れた。
 あとは、私が頑張るだけ。
 扉の脇の壁に背をつけ、目を瞑る。
 大丈夫。やれるわ。落ち着いて。
 命に代えても、未来あるあの子達を守ってみせる。
 大きく深呼吸する。大丈夫、できると心に言い聞かせる。
 そして足音が近づいてきた。
 足音‥‥。何人?一人じゃない。二人だ。
 重たそうな足取り、男だわ。
 あと数秒‥‥3.2.1‥‥。ほら!
 扉のノブを回そうとしている。でも、もちろん鍵はかけてある。壁だって作った。
 そう簡単には入れない。
 子供達は?声をあげちゃ駄目よ。
 ‥‥大丈夫ね。本当に、皆偉いわ。
 二度三度、扉に体当たりする音がした。そうして、怪力男達によって扉はいとも簡単に外され、荷が男達の足元に散らばった。
 彼女は、扉を外した反動で彼女に背を向けた方の男の首筋を、両手を組んで思いきり叩き付けた。
 男は一瞬動かなくなり、その隙に彼女は左手で剣を抜いた。
 二人目の男に向かって、剣を振り上げて威嚇し、男が剣に気を取られている隙に、腹を蹴りつけ、前屈みになったところを更に柄で首元を殴りつける。
 男は呻き声をあげてその場に突っ伏した。
「姉ちゃん、後!」
 すぐさま振り返ると、最初に倒れた男が、彼女に向かってナイフを突き出す。
 間一髪で避けるが、頬には血がにじみ出す。
 次のナイフの攻撃を剣で受け、右手で鞘を抜き、相手の腹と喉を突く。
「驚きましたね‥‥。大の男二人を女性が一瞬でのしてしまうなんて。
 しかも二刀流とは。」
 彼女が二人の男を気絶させ、一息ついたその時だった。
 扉のあったところに、背の高い、すらっとした男性が立っていた。
 優しい言葉遣いとは裏腹に、威圧感があった。
 身がすくむ。
「あなたのその勇気に敬意を表して、私もこの剣でお手合わせ願いましょう。」
 男は剣を抜いた。
 すぐかかってくる様子はない。彼女が剣を構えるのを待っている。
 この人は強い。
 でも、ここでなんとかしなくちゃ‥‥。
 子供達を守るには戦うしかないのだから。
 やるしかない!
 剣がぶつかりあう、鋭い金属音が部屋中に響く。
「その技術はすばらしい。ですが、力が足りませんね。」
 剣も鞘もたたき落とされ、そして剣先を突きつけられた。
「これでおとなしく従っていただけますか?」
「姉ちゃんをいじめるな!」
 子供達が叫び、飛び出そうとするまさにその瞬間‥‥。
 彼女の背後でようやく二人の男が立ち上がった。
 気配に気付くが、彼女は動けなかった。
「子供達をつれて、甲板へ上がりましょう。」
 背の高い男が言った。
「了解。」
 男二人は子供達に銃を向ける。
 子供達の動きが止まる。
「子供達には触るな!」
 蓮華が叫ぶ。
「あなた方が、従ってくださるのなら、これ以上は何もしません。」
 生まれて初めて見た銃。
 その上、標的は自分達。
 恐怖におののき、女の子達は泣き、男の子達は女の子達をなんとかして守ろうという姿勢。
 もう限界。この子達は耐えられない。
 それにこんな状態で、もう何も手立てはない‥‥。
 絶体絶命。
「わかった!従うから‥‥。
 子供達に触れないで。傷つけないで。銃を下ろして。」
「いいでしょう。」
 背の高い男は、二人の男に子供から離れるように指示した。
 今三人の男達は、彼女に不振な動きがないか、じっと見つめている。
 そんなきつい視線の中を、彼女は歩き、子供達の前でしゃがんだ。
 きっとこうしてこの子達と視線をあわせるのも、これが最後。
「ごめんね。皆を守ることができなくて。
 恐いのに、よく頑張ったね。偉いよ。」
 一人ずつ頭を撫でる。
「さ、皆で一緒に甲板に上がろうか‥‥。
 絶対に皆を怪我させたりしないから。それだけは、お姉ちゃん守るから。」
「姉ちゃん、僕恐くない。
 姉ちゃんこそ‥‥手痛かったでしょ。
 僕平気だから。姉ちゃんそんな顔しないで‥‥。」
 小さな手で、彼女が剣を握っていた手を哀れみ、握り、そして彼女の顔を見る。
 私、そんな心配させるような顔してる?
 子供達を守り切ることができず、戦いに破れ、責を負った顔。
「ごめんね。」
 両手を大きく広げ、子供達を引き寄せて抱きしめた。
 こんな小さな子供達に、守るべき子供達に、私慰められてる。
 いつまでたっても強くなれないのね。私。
甲板には船員、客、勿論船長も。乗船している全ての人間達が、並んで座らされていた。向けられた銃口に皆怯え、顔を引きつらせている。
 そこへ蓮華と子供達と、それを取り巻く男達が姿を現す。
 あたりはどよめいた。
 最後の望みもたたれ、すすり泣く親もいる。
「遅かったな。」
 甲板の先端で、自前の椅子に男が座っていた。
 浅黒い肌で、偉そうに手足を組んで、頭に巻いてる赤い布からは黒髪が少しはみだしてて、肩から皆と同じ民族衣装のような派手な色合いの、刺繍の入った布をかけていて、白いシャツの下からは、筋骨隆々とした胸、腕が見えた。
 すごく強そう。
「ちょっと手こずりました。すみません。」
「まあ、いい。 おい、そこに横一列に並べ。」
 蓮華を制した男の言葉を軽く流し、浅黒い肌の男がそう指示する。
 蓮華にしがみつく子供達。男の刺すような鋭い視線がますます子供達の恐怖を煽る。そしてそれを見兼ねて、他の海賊達がやってくる。力で従わせようとする。
 恐怖を少しでも緩和させるために、子供達が傷つけられることがないように、彼女は言う。
「大丈夫。皆には私が触らせないから、だから今はあの人の言う通りにしよう。」
 彼女は腰を落として子供達と視線を合わせる。
「できるわね。」
 少し強引な口調。
 彼女が一人一人の顔を見つめると、まず男の子が動きだし、それから全員が一列に並ぶ。 彼女を中央にはさんで。
「なかなか子供達に信頼されているようだな。」
 男は椅子から立ち上がると、蓮華の前に立ち、彼女をじっと見つめた。
 全身を舐めるような視線。
 品定めされてる。きっと。
「子供達に絶対触れないで。」
「もし触れたら?」
「ただじゃおかない。」
 冷ややかで、内に熱いものを秘め、矢のような、怯えているけど強い視線。
 こんな表情ができるのは、きっと彼女が今までに辛い目にあってきたから。
 子供達に見せた笑顔からは想像できない。
「随分と強気だな。」
 嘲笑したような台詞を残し、彼は今度は子供達を一人ずつ見た。
 じっくりと見つめた。
 恐怖に俯く子供達の顔を上げさせて。
 端から端まで、子供達を見、そして満足したのか、蓮華の正面に戻り、鼻で笑うと言う。
「そいつとそいつとそいつ、連れていく。
 野郎ども、引き上げるぞ!」
 男の子二人、女の子一人を、指差すと彼はこの船に背を向けた。
「ちょっと待って!」
 駄目。子供達を連れてくなんて。
「駄目!この子達は絶対に渡さない!」
 蓮華はそう叫び、三人の子供を自分の背に隠す。
 この子達の大事な未来をこんな形で潰させなんかしない。
「絶対駄目。この子達はやっと幸せを手に入れたんだから!」
 孤児であったこの三人は、やっと里親が見つかり、里親の下へ行こうとしている途中なのだ。
 幸せを漸く手に入れたんだから。絶対壊させない!
 男はゆっくりと振り返った。
 真っ黒な瞳で蓮華を見つめる。
「じゃあ、代わりに何をくれると言う? 子供は金にはかえられないぞ。」
 そんな当たり前のことわかってる。
 何だったら代わりに?
 代わりがあったら、この子達を連れていかないでくれるのね。なら‥‥。
「‥‥私‥‥私が代わりになる。」
 一歩前へ進み出て、ちょっと上目遣いにする。
「子供よりも、私のほうが役に立つんじゃなくて?
 力もあるし、常識もあるし‥‥女だし。」
 それは、力仕事もできるし、逆らうなんて馬鹿なことはしないし、男が楽しむには十分だろう、という意味。
 指先でシャツの上から鎖骨の辺りに触れてみる。
 これは賭け。
 さあ、彼は乗ってくるかしら。
「おもしろい。気に入ったぞ。 お前はオレの女にする。」
 男は指先で彼女のあごを軽く突き上げる。
「待て!蓮華を連れていかんでくれ。 連れていくならこの私を!」
「叔父様!」
 この船の船長であり、蓮華の義父親でもある男が立ち上がり、彼女に向かって飛び出そうとする、その瞬間、即座に海賊達に押さえつけられた。
「蓮華を連れていかないでくれ!」
 彼は懇願する。心の底から。
 周囲の人間が涙ぐむほどに。
「ちょっと叔父様に何するのよ。乱暴はやめて!」
「蓮華を放してくれ!頼む。」
 両手を後ろ手に縛られ、彼女は背を押され、海賊達の船に向かって歩かされる。
「待って。お別れの挨拶くらいさせてよ。いいでしょ。 逃げ出したりなんかしないから。」
 彼女の背を押す海賊が、海賊の長らしい男、蓮華をさらいつつあるあの『浅黒い肌の男』の顔色を伺う。
「一分だけだ。」
 男は言った。
「他の奴らは船に戻れ!出発の準備をしろ!」
「了解!」
 海賊のキャプテンがかわって彼女を拘束する。
 蓮華の義父親は彼女の前に連れてこられた。
 涙を流している。
「叔父様、短い間でしたけど、お世話になりました。
 私、叔父様に会えてとても幸せでした。」
「蓮華‥‥お前には本当にすまないことをしたと思っているよ。辛いことばかりで、一つもいいことしてやれなかった‥‥。」
 涙で声がつまり、言葉がうまく紡げなくなる。
 でも彼女はわかる。義父親が何を言おうとしているのか。
 だから言う。
「そんなことないわ。叔父様は本当に優しくしてくれて、いつも海にも連れ出してくれて。私叔父様と一緒にいられて、本当にうれしかった。 ありがとう‥‥さようなら。」
 彼女はそっと義父親の頬に口づけをした。
 これが最後。もう二度と会えない。
「さあ、いくぞ。」
 彼女の過去を全て断切る、その一言。
 再び新しい人生の始まり。
 いいか悪いか、まだわからない。
 彼女の心内にあるのは、ただ恐怖のみ。

 わかってたはずだ。出逢ったあの時に。
 いずれこうして別れが来ることは‥‥。
 いつの間にか、太陽は頭上で輝いていた。 客船はもう見えない。
 蓮華の目の前に広がるのは、青の世界。
「何時までそうして突っ立っているつもりだ?」
 遠く海を見つめたままでいる彼女に男が声をかける。
「そうね‥‥。」
 いずれ新しい世界にこの身を預ける時が来る、とっくに覚悟していたこと。
 後戻りはできない。いつだって。
 今を見つめなきゃいけない。現実を。
 彼女は振り返って、男を見つめる。
 そう、これが現実。
 逃げだしたくなるくらいの圧迫を感じるのは、彼の視線のせい。
「私を‥‥どうするつもり?」
 負けじと彼女は視線を返す。
 短いカールがかった亜麻色の髪が、海風に揺れている。
 良く日焼けした腕、頬、足。
 ほっそりとやせ細って、頼りなく、触れれば砕けてしまいそうなはかなさ。
「名前は?」
「人に名を尋ねるときは、自分から名のるものじゃなくて?」
 彼女は冷ややかに言い返す。
 苦笑。
「そうだな。確かに。
 オレは柘榴。このアフロディテ号の船長だ。」
 これで満足か?
 柘榴は彼女の冷たい、強い視線をまっすぐに見つめ返す。
 一体、この強気な瞳の裏には、どんな思いが隠されているんだろうな‥‥。
 こんな形で連れ去られて、本当は恐くてたまらないはず。
 どれくらい時間があれば、適応できるだろうか。
 二三日ですむわけがない。子供じゃないのだから。
「蓮華。」
 彼女は短く答える。
 視線は外さない。
「私の質問には答えてくれないの?」
「ああ、そうだったな。」
 柘榴は、彼女に近づき、頬に触れようとしたが、彼女は一歩下がってそれをかわす。
 触れられるのさえ恐いか。
 彼は彼女の後方へ回る。
「何するの!」
 二人の距離は縮められ、その上死角に入られて、急に余裕がなくなり、声がうわずる。
 強い拒否反応。
 冷静に現実に向かっていた心が、崩れる。
「別に、何もしやしない。」
 柘榴はそう言うと、半ば無理矢理、彼女の縛られた腕をつかみ、縄を解く。
「あ‥‥。」
 それは蓮華が予想だにしなかった彼の行動。
「悪かったな。力加減しらない奴らで‥‥。
 痛かっただろう。手首に跡がついちゃったな。」
 漸く封印を解かれた彼女は、その開放された両腕で、自分の体を抱きしめた。
 それは震える自分を落ち着かせようとするおまじない。
 無意識に自分を守ろうとする行動。
 幼い頃からの癖。
 大きく息を吐く。
 意識して呼吸する。
 でないと息が止まってしまいそうになる。
 彼は更に彼女の頬に手を伸ばす。
「これもあいつらにやられたんだろ。
 傷つけて悪かったな。」
 彼女は一歩身を引いて再度彼の手を避けた。
 彼は持て余した自分の手を軽く握ると言葉を続けた。
「さてと、お前の質問にまだ答えてなかったな。
 お前は、何もしなくていい。」
「‥‥じゃあ、何のためにさらってきたのよ!」
「気に入ったからさ。オレの女にしたかったから。そう言っただろ。」
「何それ‥‥。」
 柘榴はそう言うと、振り返って、辺りを見回し、何かを探している様子。
「あ、いた!
 桔梗ー!ちょっと来てくれ。」
 船中に響き渡る声。思わず耳を塞ぎそうになる。
 肩をすくめて、次に何が起きるのか、じっと待つ。
「何?」
 柘榴より少し背の高い女性が現れる。彼と同じように、頭に布を巻き、肩から、刺繍入りの布をかけている。
 船を襲ったときには見られなかった。
 優しい瞳をした女性。
 彼女は素直にそう思った。
「コイツをオレの女として相応しい格好に着替えさせてやっくれ。」
「了解。」
 親しみを持って彼女は答える。
 蓮華は彼女に手招きされ、柘榴に目で合図され、彼女の後をついていくことになる。
「私、桔梗。名前は?」
「蓮華‥‥です。」
 船の中心部、扉をくぐると上下にのびる階段が目前に現れる。
 それを上へと上がる。
 一階上がるとまた扉。
 桔梗はその扉を勢いよく開けた。
 向かいの窓から差し込む強い陽射しで目がくらむ。
 蓮華は入口で足が止まり、陽射しを手で避け、壁に寄りかかった。
 桔梗は部屋の中で何かをしてる。
「蓮華ちゃん、どうかした?」
「いえ‥‥大丈夫。」
 もう少しそのまま、視界がしっかりするまで、壁に寄りかかったまま、でも陽射しに目を眩ませているなんて気づかれたくないから、すぐに桔梗の側へ行く。
「本当に大丈夫?」
 桔梗はタンスから何着か服を選び出しながら、振り返って蓮華の顔色を伺う。
 少し血の気が失せた様子。
「そのベッドに座って待ってて。」
 彼女は再びタンスの中をあさり始める。
「私の服だから、ちょっと大きいと思うけど‥‥。これなら着れるかなあ。」

「体弱そうだけど、本気で面倒見切れるの?
 軽い気持ちであんなこと言ったんじゃないよね。もしそうだったら、アンタぶっ飛ばすよ。」
 蓮華が着替えている間、部屋を出てきた桔梗は、扉に寄りかかって、小声で柘榴に言う。
「マジだよ。マジで気に入ったんだ。」
「どこに?あの辛そうな瞳に?」
「違う。なんかこう‥‥コイツだって思ったんだよ。」
「ふうん。 けど、あれは大変よ。
 船酔いしそうだし、警戒心が強いのは仕方ないとは思うけど‥‥。」
「まーな。大変だろうな。
 初対面の人間同士だし、さらわれたっていう恐怖もあるし、子供とは訳が違うし。」
「子供じゃない‥‥か。あの子何歳? 思春期ってカンジ。」
「知らないよ。でも、そんなもんだろ。」
「なんでそんな難しい年頃の子拾ってきたのよ。らしくない。 子供、いなかったの?」
「いや、皆結構幸せそうだったしな。
 アイツが一番苦しんだ瞳をしてた。苦しんだ、というより、苦しみの呪縛に縛り付けられたままの、ってところだな。
 それに一目見てさ、気に入っちゃったんだよね。連れて行くしかないって思ったんだよ。挑発されたし‥‥。」
 あの上目遣い、良かったよな。
「ま、いいけど。少し真面目に考えなさいよ。あの子の心がほぐれる方法。」
 少し呆れた様子で桔梗は言う。
「ああ、わかってる。」
「‥‥呼んでるわ。 わかってると思うけど、柘榴はまだ中に入んないでね。」
 桔梗は軽く返事をして部屋の中に消える。
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2009年07月26日

偏頭痛

今週末の偏頭痛はひどかった!
手が震えてしまった。だんながビビッて、ただの偏頭痛と思えなかったらしく、医者に連れて行かれそうになりました。
でもクリアミンとロキソニンで激しいのは取れたけど、
さすがに完全には消えなかったです。
でも、胃に穴が開きそうな気がしたので、あとは、市販の鎮痛剤で誤魔化し、
今日何とか子供をプールに連れて行ってきました。

週末便秘、平日下痢・・・・私、そんなに仕事に出ることがストレスなんだろうか??
どんな仕事しても、状況は同じだから、きっと閉じこもっていたいのかなあ・・・。
でも家のローンのために必死に働かないといけないのです。
posted by houmonkangoshimama at 21:16| Comment(0) | うつ病奮闘記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

7/26

今日のシンケンジャーを見て、ますます、シンケンレッドにほれました!ことはちゃんといい関係になるのかな?
執事の衣装、ものすごく似合ってたし。殿様だけじゃなくなってきて、なんか見ててドキドキ。

子供はイカ折神エビ折神に興奮する傍ら、私はたけちゃんとりゅうのすけにコーフンです。毎日、映画に連れて行けといわれ、面倒くさいなと思いつつ、いく気満々の私。

posted by houmonkangoshimama at 21:11| Comment(0) | 子育て日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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