カテゴリ

2009年06月28日

小説 青〜エピローグ

10 過去と現実
いけない、美弥と瑠璃をすっかり怖がらせてしまった!

女性は、両脇に横たわる少女達の寝顔を見て、ほっと胸をなでおろした。

少女達は、目は閉じていたが、にっこりと微笑んで、なんとも楽しそうな表情。

きっと、五人の少年少女達が、草原で遊んでいたあたりで眠ってしまったんだろう。

彼女は二人の布団を掛け直すと立ち上がり、暖炉の部屋へ戻った。

揺り椅子に手を掛けたが、それには腰掛けず、雪で縁取られた窓へ歩み寄った。

外は深い雪で覆われていた。時折強い風が吹き、積もった軽い雪を舞い上げる。闇に包まれているのだが、何故か夏の夜よりは、ずっと明るく感じた。

女性は再び過去の糸を手繰り寄せた。漸く風が落ち着き、麗南と華楠は顔を上げた。



「何があったの?」

 麗南が呟く。

 背筋がぞっとして、華楠は身震いした。

 何も言葉にはならず、ただ胸いっぱいに不安が広がった。

 後ろを振り返って見ると、かろうじて洞窟は潰れなかった。

 華楠は駆け出し、洞窟をぐるっと回って丘に上った。

 丘の上の木は、倒れてはいなかったが、すすにまみれて、木炭のようになっていた。

 華楠は目を凝らし、村の方角をじっと見つめた。茶色い壁が、彼女の視界を遮っている。

「華楠……。」

 すぐ、麗南もやってきた。

 二人で丘の上に立ち、目の前が開かれるのを待つ。

 また、強い風が吹いた。

「信じられないよ……。」

 華楠が呟く。

 丘から北の方角。

 そこには桜の大木を中心に、家々が望めるはずだった。

 しかし今は、大木の面影もない。動物の鳴き声も、豊かな緑も、風も空も私達の居場所も何も無い。

 まばたきもせず見開いている華楠の目からは涙が溢れた。

 体が震えた。

 一歩下がった所にいた麗南の頬も涙でぐしょぐしょだった。

「那岐は?朔耶は?梓夕は?」

 思考力はもはや働かなかった。

「村へ戻らなくちゃ。」

 只そう思い、華楠は丘を駆け出していた。

 麗南も引きずられるように、後を続いた。

 何もかもが木っ端微塵だった。

 家々の柱はおろか、桜の大木も、もはや何処にあったのかわからない。今立っている場所でさえ、本当に村があったところなのか、疑問に思えてきたほどだ。

「しゆー!なぎー!さくやー!」

 二人は大切な人達の名前を呼んで歩いた。

 村の中だと思われる場所は、隅から隅まで歩いた。

 しかし自分達の声と、足音以外音らしい音は、何一つ聞こえない。

 心の隅では、この行為が無駄なことはわかっていた。

 ただこうする他に、何をしたら良いのか思いつかなかったのだ。

 土埃のせいで、喉が乾燥して、声が枯れた。

 歩き疲れてその場に座り込んだ。

 いつのまにか夜の闇が訪れていた。

 周囲は何も見えなくなり、急に寒さを感じた。

 二人は背中合わせにうずくまり、膝を抱えて、もう駄目だ、と同時に思った瞬間……。

 音がした。それも、土と瓦礫を踏みしめる足音。人間のそれ。

 一人じゃない。

 遠くから松明の光が見えた。誰かがやって来る。口々に何かを叫んでいる。こっちに向かって来る。

 わかったけれど、二人は動けなかった。声も出なかった。

 もうどうなってもいい。

 華楠と麗南は、背中合わせのまま、ぎゅっと手を繋いだ。

 松明が眩しかった。集まった人の顔はよく見えなかった。武器を持っているみたいだった。人々の声は、雑音にしか聞こえなかった。

 肩を掴まれ、繋いでいた手を無理矢理引き離された……。

 

青、青、青。

 空の青、水の青、心の青。

 自然の織り成す青。

様々な種類の青。

 もう何処にも見えない。

 

エピローグ
 女性は、首から下げた皮の紐を手繰る。紐の先には、古びた四種類の布を合わせて作った

四葉のクローバーと、くすんだ青いリボンがつけられていた。静かに夜は更けていく……。 


posted by houmonkangoshimama at 19:20| Comment(0) | 小説 タイトル 「青」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月27日

小説 青〜9

9 荒れた土地
 肉親がいない。心許せるのはお互いだけ。

 そんな境遇でも、楽しく平穏な日々送っていたのは、つい一ヶ月前までのこと。

 この一ヶ月の間で、五人の周辺はめまぐるしく変化した。

 近隣の国同士で戦争が始まった。何故戦争が始まったのか、そんなことはわからない。只、村がこの地にあった、それだけで、五人の住む村は戦場の一部となった。村人の多くは殺され、村半分の家屋が焼かれた。

 青々とした緑に覆われていた大地は、焼けて、荒れ果て、埃まみれの大地に変化した。大地を潤す豊かな川は、血と泥と魚の死骸でいっぱいになった。大地を照らしていた太陽は、煙と雲に覆われ、輝きを失った。空はもう、青くない。

 五人は、かつての遊び場だった洞窟に隠れていた。

 太陽の輝きが十分に届かなくなったせいで、残暑が厳しい時期にも関わらず、寒い。

 一番体の小さな那岐は、寒さに震え、顔は青白い。

 麗南は、震える那岐を抱き寄せた。

 朔耶は、小さくなりつつある炎に、残りわずかな枯れ木をくべる。

 梓夕は怯える華楠の頭を撫でていた。

「明日、村に戻ってみる。」

 梓夕が突然言った。

「村へ?危ないよ。」

 華楠が顔をあげて言う。

 華楠の顔も、那岐に負けず劣らず青白い。

「だけど、もう食べるものもないし、毛布だってない。このままじゃ凍え死ぬよ。

 今なら兵隊の気配もないし、銃撃の音もしないし、もしかしたら、戦争も終わったかもしれない。

 いつまでもこの洞窟に隠れているわけにもいかないだろ。

 俺達、生きていかなきゃならないんだ。

 そして、五人一緒に住める家を建てるんだ。」

「だな。」

 梓夕の言葉に朔耶が賛同した。

「危ないよ。殺されちゃうよ。」

 華楠が目に涙を浮かべ、梓夕の服を引っ張り、止める。

「なら、このままここで死ぬのを待つ?

 誰も助けには来てくれないよ。そうだろ?」

 だって、俺達はいつだって俺達だけなんだから。

 梓夕は力強く言った。

「頼れる人なんていないさ。」

 今も昔も。ずっと五人で生きてきた。

 朔耶も立ち上がった。

「那岐と麗南と華楠はここで隠れてろ。二人で様子を見てくるから。」

「待って。僕も行く。動いた方が体があったまるでしょ。」

 那岐がよろめきながら立ち上がった。

「よし。じゃあ麗南と華楠は絶対ここにいろよ。もし俺達が戻らなかったら……。」

「朔耶、待ってるよ。戻って来なかったら探しに行くから。余計なこと考えないで。」

 朔耶の否定的な言葉を麗南が遮った。

「華楠、ほら、笑って。

 大丈夫だよ。俺達、今を乗り切って、世界一幸せになろうぜ。」

 華楠と麗南は、手をぎゅっと握り合って立ち上がり、見えなくなるまで三人の後ろ姿を見送った。

 

  青、青、青。

 空の青、水の青、心の青。

 自然の織り成す青。

 様々な種類の青。

 それは幸福の象徴。

 神様どうか、三人をお守りください。

 梓夕、朔耶、那岐。この三人が洞窟を後にしてから、随分時間が経ったような気がした。

 時計もないし、太陽も見えないから、時間の感覚も麻痺してしまう。

 華楠と麗南は、焚き火を前にして、ぴったりと寄り添い、座っている。暗く、灰色の大地をただ見つめていた。

「遅いね。大丈夫かなあ……。」

 蚊の鳴くような声で、華楠が呟いた。

「大丈夫だよ。心配ないよ。

 ね、華楠、あれつけてる?」

「うん。」

 麗南の問いに、華楠は首から下げた、クローバーのチョーカーを胸元から引き出した。

「絶対になくしちゃ駄目だよ。これがあれば華楠は必ず幸せになれるからね。」

「うん。」

 二人は微笑みあった。

 無理に笑顔を作り、自分自身に大丈夫と言い聞かせる。そうでないとじっと座っても居られなかった。

 その時、大地を揺るがすほどの爆音が鳴った。洞窟の天井からぱらぱらと石片が落ちてくる。

「何?」

 と麗南。

「きゃー。」

 と叫ぶ華楠。二人は慌てて外へ飛び出した。

 洞窟の外は、茶色いカーテンを引いたように、強い風が土埃を舞い上げている。周囲は見えず、二人は只、うつ伏せになって口をつぐみ、風が止むのを待った。
ラベル:自作小説
posted by houmonkangoshimama at 09:49| Comment(2) | 小説 タイトル 「青」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月20日

小説 青〜8

 8 朔耶の愛
 今日は朝から暑かった。風はほとんどなかった。

 五人は村の真西にある橋の下で遊んでいた。

 川の浅瀬で脛まで水に浸かりながら、ばちゃばちゃと水をかけあう、華楠、梓夕、那岐。

 橋の影で日差しを避けながら、土手に腰を下ろし、それを見守る、麗南と朔耶。

「華楠!転んで怪我しないように気をつけてよ。」

 麗南が声を掛けた。

「うん。大丈夫だよ。」

 華楠は遊びに夢中で、適当に相槌を打つだけだ。

「麗南は母親みたいだね。」

 那岐がそう茶化すと、すぐさま華楠に水を引っ掛けられる。

「うわっ。ひでー。」

「もう、華楠てば、ちっともわかってないんだから。絶対そのうち、すべって転んで泣くんだよ。」

 麗南は溜息をついた。

「あははは。そうだな。

 麗南は、華楠のことをよくわかってるな。」

「そりゃそうよ。だって、華楠は妹も同然。」

 麗南は得意気な顔をした。

 麗南は、三人をというより、華楠のことを見守っている。ずっと、目を離さない。

 俺は麗南のことが好きだ。教会に連れてこられて、初めて会った時から。多分これからもずっと、麗南のことが好きだろう。だけど、麗南にはこの気持を話したことは一度もない。そしてこれからもあり得ない。

 朔耶は麗南の方を向いた。

 こめかみの辺りから、一筋の汗が流れる。

 瞳は飛び散る水しぶきが反射しているせいか、輝いて見える。

 麗南はかわいい。

 朔耶は思う。

 でも、麗南は華楠のことが好きだ。いつも、妹みたいにかわいくて大切で大好きだ、と言うけれど、俺はそれ以上の思いがあるんじゃないか、って時々思う。

 俺が、麗南に好きだと告げても、麗南は絶対に振り返らないだろう。麗南が見ているのはいつでも華楠だけだから。妬けるよ。

「ねー、麗南もおいでよー。水、冷たくて気持ちいいよー。」

 華楠が、両手を振りながら叫んだ。

 梓夕も手招きしている。

「いいよ。私、濡れたくないもん。」

 麗南は少し大人びてる。俺達の遊びには加わらないで、見ているときがあるからだ。それは決して馬鹿にした態度をとっている訳ではなく、そう、今みたいに、見守っているんだ。俺は、麗南のそんなところも好きだ。

「冷たくて気持ちいいのにー。」

 華楠が少しだけふてくされた表情をする。麗南はその様子を見て、微笑む。

 もし、俺が告白して、強引に麗南の心を捉えようとしたら、一体どうなってしまうのだろう。

「朔耶もこっち来いよ。」

 梓夕が言った。

「いや、いいよ。」

「ふうん。」

 梓夕は何か言いたそうな表情だ。

 もし、俺が告白したら、華楠を介して俺達の方へ向いている心は、ばらばらになって、麗南は俺達から離れていく。五人の関係が崩れていく。そんな気がする。

「このままずーっと、五人で遊んでいられたら良いね。」

 突如、那岐が大声で言った。

「いられるよ。ずうっと一緒に。」

 華楠が力一杯答える。

「大人になったらさあ、家を建てよう。俺達五人が一緒に暮らせる大きな家。」

 梓夕が両手を広げて言った。

「それいいね。」

 と華楠。

「そしたらずっと一緒にいられるね。」

 那岐が言った。

 五人で居る事を、皆が望んでいる。

 このままでいいんだ。

 朔耶が呟いた。

「?朔耶何か言った?」

 麗南が横を向いた。

 その時。

「うわー。」

「華楠、大丈夫?」

 華楠は足を滑らせ、横倒れになった。

 梓夕が助け起こし、土手に引っ張りあげた。

「もう、だから言ったじゃない!」

 麗南は慌てて土手を下り、華楠に手を貸した。
posted by houmonkangoshimama at 18:01| Comment(0) | 小説 タイトル 「青」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
過去ログ

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。